僕の学習:「(株)早稲田アカデミー」の有価証券報告書から分かること

「僕」の学び

2016年7月3日(日)。

 

サピックスの7月組分けテストの待ち時間に、「株式会社早稲田アカデミー」の有価証券報告書を分析してみました。塾のカリキュラムの観点ではなく、証券分析の観点からの企業分析です。ブログを書くと、僕の記憶にも定着しますので、備忘録がてらエントリーします。

 

1. きっかけ

本当は「サピックス(SAPIX)」を単体で分析してみたいのですが、そもそもサピックスの経営母体は非上場会社ですし、2010年前後に代々木ゼミナールグループ(同じく非上場会社)に買収されており、定量的な情報からの分析は困難(※不可能ではない。やろうと思うならば、官報に掲載されているであろう簡易財務諸表がソースとなる筈)。

 

しかし、「株式会社早稲田アカデミー」は東証一部上場会社。IRのページで公開されている有価証券報告書を読むことが可能です。中学受験は、「サピックス」、「早稲アカ」、「日能研」、「四谷大塚」の大手4社の寡占状態にあり、厳しい競争環境にありますので、同じような状況に収斂している可能性高し。

 

2. 判明したこと

(1)少なくとも5期連続で増収、従業員も増加している

2012/3期:172億円(733人)

2013/3期:180億円(771人)

2014/3期:185億円(788人)

2015/3期:194億円(831人)

2016/3期:201億円(852人)

 

売上高は年率3.1%増加(※)。従業員数も同じく年率3.1%の増加でした。少子化の流れの中で、成長するなんて凄いですね。

 

(※=(201/172)^(1/5)-1。僕はHP12Cが好きなので、HP12Cで計算する場合には「201 Enter, 172÷, 5, 1/x, y^x, 1, -」。)

 

(2)臨時雇用者を多数使うビジネスモデル

2016/3期は、「平均臨時雇用者数」が3,339人。「従業員」が852人。3,339/852=3.9。ということで、正社員1人に対して、バイトさんが4人いる計算です。このバイトさん、恐らくは、講師・採点係・事務、と思われます。講師のどの程度がバイトさんなのかは、不明。

 

p.14には、「売上原価につきましては、非常勤職員の給与や人材派遣費の伸びが抑えられたことにより」と記載ありますが、バイトさん、大丈夫だろうか!?

 

(3)少なくとも5期連続で利益計上している

ざっくり、3~6億円を毎期計上しています。

 

(4)早稲アカの経営母体は、元は機械メーカー(か商社)

昭和50年(=1975年)7月に、塾としてのビジネスの創業者である須野田誠氏が、東京都杉並区阿佐ヶ谷南にて、小中学生対象の学習指導サークルを開始。翌、1976年3月に名称を「早稲田大学院生塾」として、学習塾として発足。1979年に、昭和49年(1974年)創業の「大鵬機械株式会社」営業譲渡し、名称を「株式会社早稲田大学院生塾」に変更。

 

よって、早稲アカの経営母体は、元は機械メーカー(か商社)なんですね!

 

(5)四谷大塚との提携

平成9年(1997年)に株式会社四谷大塚と提携塾契約を締結。これが、早稲アカの経営としての飛躍の第一歩だったみたいですね。2年後の1999年に上場(店頭登録)。

 

(6)平成24年(2012年)には東証一部上場

東証一部上場会社です。ピカピカですね。

 

(7)グループの概要

以下3グループから構成されています。

 

①株式会社早稲田アカデミー

②株式会社水戸アカデミー

③株式会社野田学園

 

ぜんぶ、前株(=前に株式会社がつく)なんですね。偶然の一致なのか、趣味の問題なのか。

 

(8)事業セグメント

以下2セグメントから構成。

 

①教育関連事業

②不動産賃貸

 

しかし、上記②の不動産賃貸は従業員はカウントされておらず、遊休不動産を賃貸に出しているだけのようです。つまり、教育関連事業がメイン(当たり前か!)。

 

(9)社員さんの年収

①従業員数:837人

②平均年齢:35歳8ヶ月

③平均勤続年数:7年6ヶ月

④平均年間給与:5,086,898円(=ざっくり500万円)

 

実際には、いわゆる総合職以外(一般職)の方もいるでしょうから、講師となるような総合職の方の平均年収は、600万円前後と推測されます。僕が思っていたよりも、、、。エース級の講師と、それ以外でどう異なるのか、社内の人事評価制度を見てみたいですね。

 

(10)業務効率改善

従業員の労働環境改善にも力を入れているようです。大事な記述でしたので、抜粋します。

 

「また、業務効率の改善並びに人材の適正配置を図るため、校舎の規模・役割に応じた営業時間の設定とそれに供なう業務フローの変更及び休日設定の見直しに取り組むとともに、将来の持続的な発展に向けて、従業員の勤労意欲向上と人材採用力を強化するために、専門家を交えた人事制度改革プロジェクトを始動させました。」

 

このプロジェクトが動いているということは、労働環境は、、、なんでしょうね。先生方に頭が下がります。

 

(11)生徒数

①小学部:14,719人(前期比5.0%増)

②中学部:13,750人(前期比1.7%増)

③高校部:3,188人(前期比2.2%増)

 

順調に伸ばしているようです。尚、早稲アカの過去の有価証券報告書を分析すれば、小学部のお客さんの数の推移が把握できることを意味します。今回は、そこまでは見ませんが。

 

(12)小学部の生徒の授業料は?

①小学部:14,719人

②売上高:9,463,721円

③一人当たり売上高:642,959円/人(=ざっくり65万円/人/年。5.4万円/人/月)

 

ざっくり、月謝は5.4万円/人。実際には、低学年はそれほどでもなく、高学年で夏期講習などで嵩んでいるはずです。

 

(13)早稲アカの「企業価値の源泉」

大事なので抜粋します。

 

「当社は、昭和51年に「早稲田大学院生塾」として発足して以来、教育理念として「本気でやる子を育てる」、経営理念として「目標に向かって真剣に取り組む人間の創造」を一貫して掲げ、自分たちの力で日本一の学習塾になろうとの目標のもと、学習塾としての原点を見失うことなく、「成績向上と志望校合格」という生徒・保護者の期待とニーズにこたえることを最優先に、質の高い授業の提供に努めております。」

 

この、自分たちの力で、という言葉に価値観が滲み出ていますね。僕は好きです(笑)。

 

(14)買収防衛策が導入されている

上場企業なので、敵対的買収の対象になる可能性があります。20%以上の持分取得を目指す場合、既存株主に対して新株予約権の無償割当を実施できるようにしています。いわゆる、ポイズンピル・ライツプランです。これは平成30年の株主総会までが有効期間。また、延長されるのでしょう。

 

でも、敵対的買収をしてまで早稲アカをコントロールしたい、という投資家はいるのだろうか?

 

(15)事業方針

とても大事なので、抜粋します。

 

「このような状況下、当社といたしましては引き続き、中学受験においては御三家中学(男子は、開成・麻布・武蔵の各中学校、女子は、桜蔭・女子学院・雙葉の各中学校)及び早慶付属中学を中心とした難関中学への合格実績、(割愛)を、当社への入塾動機及び通学率の向上に繋げ、また、計画的な校舎展開により塾生を確保し、事業の拡大を図っていく方針であります。」

 

実績は経営に直結する大事なKPIということですね。

 

(16)株式会社四谷大塚との提携塾契約

四谷大塚の教材を「一定の掛け率(割引率)」で購入しているんですね。

 

(17)組織構造

有報には組織図は書いてありませんが、p.15の主要な設備の状況において、ヒントが。例えば、「城北ブロック」には12校舎。この、ブロックが10ブロックあり、それぞれに校舎が5~19あります。このブロック単位で、経営が行われている模様

 

(18)大株主

5%以上の株主は以下4名。

 

①株式会社ナガセ:17.89%

②英進館株式会社:10.25%

須野田珠美(東京都新宿区):9.16%

④福山産業:6.98%

 

この、須野田氏ですが、創業者の姓であることから、創業者一族の方でしょうね。

 

(19)ストックオプション

無し。え?無いの?従業員のモチベーションにならない気がしますが。。。いや、株価が気になるようでは子供の指導を誤るか。。

 

(20)配当政策

1株あたり30円、連結配当性向は42.7%。いいですね。

 

(21)取締役会

定款で取締役は6名以内としています。現状の取締役は、

 

①代表取締役社長/古田信也氏

②専務取締役/河野陽子氏

③常務取締役/山本豊氏

④取締役/伊藤誠氏

⑤取締役/川又政治氏(※社外取締役)

 

専務も常務も、1人しか置いていません。つまり、「専務!」「常務!」といえば、特定の方になるので、呼ぶのが楽ですね。

 

(22)経営会議

そんな早稲アカの経営ですが、以下で経営が行われています。

 

①取締役会:毎月1回+α。

②経営会議:取締役、常勤監査役、校舎を統括するブロック長、本社部室長で構成。

 

やっぱり、「ブロック長」が現場実務のトップと推測されます。

 

(23)早稲アカのトップの年収は?

p.29に、取締役(社外取締役を除く)の報酬等の総額は、129,391千円。社外取締役を除く、、、とりますが、なぜか「5名」とあるので、5で割って見ます。129,391/5=2,587万円/年。ざっくり、年収2,500万円。そんなに高くありませんね。寧ろ、低いです。頭が下がります。

 

(24)連結財務諸表

①総資産:121億円(土地、建物、保証金が95億円、つまり大半が校舎。現金22億円あります

②総負債:56億円(有利子負債は2億円くらいしかありません)

③純資産:65億円(利益剰余金46億円。立派!

 

これ、ファンドからみたらTOBして配当せよ、ってなるんじゃないだろうか。ちょっと心配。早稲アカ、こんなに現金溜め込んでどうするんだろう。どこかの塾の買収?それとも、、、?

 

(25)デリバティブ取引

長期借入金をヘッジ対象とした、金利スワップしかしていません。怪しい金融取引はしていないようです。

 

(26)株価は?

こちらです。過去5年では、800~900円のBOX圏です。現在の株価850円で、時価総額は71億円。純資産が65億円なので、PBRは約1.1倍。現金22億円も持っていますから、ハゲタカファンド(というかアクティヴィストファンド)からしたら結構オトクなんじゃないだろうか?

 

3. まとめ

決して恵まれているというは言えない労働環境で、先生方は頑張ってくれている。経営者も正当な報酬で頑張っており、経営の無駄を無くそうと努力している。現金22億円で、チャンスがあれば地方の塾を買収して業容を拡大しようとしている。

 

僕の目には、そう映りました。

 

【追記】

いろいろコメント頂いておりますが、その全てを承認させて頂くわけではありませんので、ご容赦下さい。これは反省録ですので。

 

 

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Posted by senki